虹の待つ森へ 

第3章 暴走

月が沈みかけている。

ロンジはまだ堤防に腰をかけていた。

未だに考えるが、その人は出てきてくれない。

「…戻るか」

諦めて呟くと、堤防から降りた。

「どこに?」

ふと、少年の声がした。

「君は、どこに帰るの?」

「誰だ…?」

「こっちこっち。」

辺りを見回すと、黒いフード付きのローブを羽織る少年が灯台の前にポツリと立っていた。闇の中に黒いローブ…まるで消えている様にも見える。縁の燃える火ような紅いラインだけが目立ち、かろうじて少年を見失わずに済む。

歩いてその少年に近づく。

「君はどこの人?」

少年はいきなり口を開いた。

何の話だ?

「俺は…樹海の中から来た。」

戸惑いつつも、ただの少年の好奇心だろうと思い、適当に答えた。

すると、少年は笑った。

「知ってる?近くの樹海に滅びてしまった国があること。」

「・・・何故それを知っている!?」

あんな辺境、余程の奴じゃないと行かない。そんな情報がこんなに早く流れるわけ…

「まさか…お前…シェラフか?」

「シェラフ?」

少年は首をかしげて聞き返してきた。

「・・・いや、知らないならいい。」

「そんな言い方されちゃ、気になるよ。」

少年は好奇心を光らせた目でロンジを見た。

「魔物だよ。」

小さな声で答えてやった。すると、少年は目を見開いた。

「それって、強い?」

先ほどよりも、目が輝いている。笑い事じゃねぇぞと言いたいところだが、子供相手にそんなこと言うのは大人げない…

「あぁ、強い。とても強い。」

そう言いながら、ロンジは一つ思い出した。

初めて暴走したあいつを見たとき。あいつに衝撃波をくらわせられたとき。ロンジの中に何かが入り込んできた。それは…血に飢えた野獣の様な紅い靄に、眠るように穏やかなシェラフが包まれていた絵。

あれは…何だったんだ?

あまりにも一瞬の絵で、すぐに記憶の中に納められていたようだ。

「君は、強い?」

少年の言葉で我に返った。

「…あんまり。」

「嘘だ。」少年は短く、低めの声で言った。

同時に少年をとりまくように緑を帯びた光る風が起こる。

「なっ!」

それは風の中で、前にロンジが妖刀を使ったときに現れた鬼神の仮面をかぶる男性に姿を変えた。仮面は左半分が白塗りでもう半分が黒く塗ってあり、口元だけが見えている。

「何故お前は自分を強いと言わない?」

男性は仮面から覗く緑の目でこちらを睨みつけた。

「何故、強さを誇らない?」

男性はゆっくりロンジに近づいていく。

「答えろ。」

ロンジはいきなりの事に少し戸惑ったような様子を見せたが、静かに口を開いた。

「俺は・・・自分が強いと言いきれないだけだ・・・お前は強さを誇るのか?自分は強いと言いきれるのか?・・・誇った後で打ちのめされるのは辛い。」

そう言うと、今まで厳つい顔をしていた男性はニッコリと笑みを浮かべた。

「面白いな、小僧。私の子孫よりもずいぶんと優秀だ。」

糸を張ったような緊張感が一気になくなり、男性もずいぶんと優しそうな様子を見せる。

「あんたが・・・その・・・『誇り高き騎士』か?」

ロンジが妖刀を掲げると男性はそうだと頷いた。

「私の見る目も落ちていないようだな・・・」満足げに呟く。

「なぜ、俺を認めた?」

「そんなことを聞くなよ。」

男性は肩をすくめた。

「・・・」

「分かったって。私が君を認めたのは・・・」

男性は考える素振りを見せる。

「そうだな、誰かを守るために力を振るうのに躊躇いが無いこと、それから―――――何が一番相手を恐れさせるのかがわかっていることか。」

つらつらと意見を述べるが、ロンジはよく分かっていないようで、首がだんだん傾いていく。

「・・・何か、わからねぇな」

呟くと男性はハハハと笑い出した。

「後々分かってくるだろう。」

空を見上げ、一度何か言いたそうに口を少し開けるがすぐに閉じた。

「さぁ、月が沈む。闇夜には危険が潜んでいる。帰るなら今のうちだ。」

もう一度口を開いた。ロンジの目をしかと見据えながら言う。

「・・・何の話だ?」

真顔で尋ねると、男性はいきなり笑い出した。

「もう遅いから帰れって話だ。可愛い女の子達が待っているんだろう?」

「・・・」

呆れて何も言えなかった。

「ま、あまりにも暇だったら出てくるから。」

そう言って、男性は――――――消えた。

「・・・何が『誇り高き騎士』だ・・・勝手な奴め。」

男性がいなくなった後一人でぼやくとなんだか空しくなった・・・

「・・・マイツの家って・・・どこだ?」

自分の失敗に我ながら呆れてしまう。

シンに聞いておけばよかったと後悔しつつ、どうしようかと悩む。

とりあえず、街中に戻り歩き回ってみる。もう夜中だというのに店はいつまでも明るい物が多い。灯りが点いているのは怪しい占い屋台から酒場、売春小屋まで。昼間には気付かなかったが、真剣にこの町が嫌になった。

「マジかよ・・・」

ロンジは灯りの点いていない建物も、点いている建物にも入りたくなかった。

誤解を招くのが恐いと言う人ほど、誤解という妄想の世界に入りやすい。・・・要は考えすぎると言うことだ。

まさにロンジもその型だ。入りたくないのも、点いていない家は泥棒に思われたくない。そして、点いている建物には客に思われたくない。と言う理由だ。

「俺って・・・やっぱ馬鹿?」

街の真ん中で、行きも帰りも出来ない。

朝を待つかどうか真剣に悩む。

「そういや・・・」

シンの言葉の一フレーズが頭の中に浮かび上がる『ポンバートさん、鍛冶屋なんですって。』・・・

もう一度、ポツリポツリと灯りの灯った街中に入っていった。

「鍛冶屋・・・鍛冶屋・・・あ。」

看板を見つけ、あった!と喜ぶがそれは一瞬のことだった。

見渡すと、防具、武器、関わらず鍛冶屋と武器屋がかたまる。

「・・・なんだよこの辺は!!」

・・・思わず逆切れ。

一件尋ねてそこで聞けばいいのに、疲れていたのかまったくその気になれなかった。

・・・そしてまた、港に戻って来てしまった。

月が沈み、灯台の光だけが海を照らす。

「俺って・・・馬鹿だ。」

船着き場の堤防にもたれ、座り込む。

街の灯りも少し少なくなった気がする。余程遅い時間なのだろう。それでも変わらず灯台からは強い光が放たれている。遥か空に一本の光の帯が舞う。

目をつぶると、波の音が心地よい。

少し冷えてはいるが、眠っても凍死することはないだろう。

くだらないことを考えながら、眠気に身を任せようとした。

 

突然、頭の上で何かが割れるような音がした。

空を仰ぎ見ると灯台の明かりが消えている。

驚き、跳ね起き、反射的に構える。

闇に光る水の滴のように街の光を反射し、煌めきながら落ち行くガラス。それと共に丸い物体が二つ、ガラス達の中、同じような速さで降りてくる。

「な、何だ・・・」

驚きを隠そうともせず、ぽかんと口を開けて、目の前に降り立ったその丸い二つの物体を見る。

「うわっ!!!!」

それは異常なほどまばゆい光を体から放った。目がくらむ。

灯台の奴らか?

まだチカチカする目で、暗闇の中の二つの物体を探す。光から闇にいきなり移ったせいで周りは何も見えない。

もうすでに体からはなった光は消え、今は小さく丸い目のような物がそれぞれ二つ。合計で四つ黄色い光を放っている。

剣を抜き、その四つの光めがけて振るが、自分が動くたびにその四つの光は残像を残すようにして増える。

「クッソ・・・」

どれだけ振るっても、剣の先には当たりの感触がない。

ケタケタケタケタ・・・

相手は嘲笑うような鳴き声で挑発する。

為す術を見つけられず、まだチカチカとなる目をしかめながら突っ立っていると青白い閃光が自分の横を通った。

大分暗闇になれてきた目がその正体を見る。

月もない闇の中、銀髪をキラキラと光らせる―――――――シン。

「あまりにも遅いので、心配しました。」

潮風に髪をなびかせながら、背を向けたまま言う。

「まだこんなところにいたなんてね。」

また別の声が聞こえ、後ろを振り返る。

ジェルナ。そしてナルス。マイツまでいる・・・

「やけに弱くなってんじゃん。一人前に平和ボケ?」

マイツはクスクスと笑う。

「うっせえよ。」

思わず顔を逸らす。

ケタ?

おかしな鳴き声を立てた後、魔物達がもう一度強い光を放つ。

・・・まずい!!!

光が止んだとき、また完全な闇の中へ放り出された。

「・・・お前、本当にサボったろ。」

マイツの声をすぐ横で聞いた。

ギェヤ!

ほぼ同時に魔物の物と思われる叫び声が聞こえた。

一体何が起こったのか、ロンジには解らなかった。

それからしばらく経って見えたのは、黒くつぶれた何かとその側に立っている、銀に光る“爪”をつけた――――――――――――――マイツだった。

マイツの家は、街の少し外れ。昨夜、夜遅くまでいた港からはそれほど離れていない。

あの鍛冶屋の‘集落’の辺りではなかった。二階建てのやけに横に長い家だった。鍛冶屋だとか言いながら、看板などは全くなかったので借り家かと尋ねると「そうだ。」と返ってきた。

 

「ン・・・」

眠りから目を覚ますと、上体を起こし一つ伸びをして、フウッとため息をつく。床の上で眠っていたせいで体のあちこちが痛い。

「マイツ・・・?」

昨夜同じ部屋で寝ていた顔を探すが、どうやらもういないようだ。

扉に手をかけると、下の方から騒がしい声が聞こえてきた。

不思議に思い、階段を下りると居間に全員がそろっていた。

居間には一つ、マイツの商売道具。金属を溶かす釜のようなものが据えられている。そのまわりに二つの茶と金の頭の三人に囲まれ、二人が言い争いをしている・・・・・・あれ?五人?

「何してるんだ?」

シンの頭の上から覗く。すると、言い争っている奴らの正体が分かった。

マイツと“騎士”だ。

そしてマイツの手には――――ロンジの剣?

「お、お前何やってんだ!」

思わずマイツから剣をひったくる。

「おはようマイドール。」

「お、おはよ。・・・・・・じゃなくてだな」

こちらの様子を気にした様子もなく挨拶され思わずそのまま返答してしまった。

「何やってんだよ、これは。」

そう言って、ロンジは片手で持った剣を示す。

「昨日貰った羽でせっかく鍛えようとしたらさ、何かこいつが現れて」

“騎士”を指さしながら言う。

「熱いわ、死ぬわ、うるさくてよ。」

「無礼な小僧だ。君はそんなことをしてもいいと思っているのかね。」

「いけないのかよ。何度も言うが武器を強くするのが鍛冶屋の使命だろうが!」

「愛着のあるものを改造する事がいいとは私は思わないと言っているんだ!」

騒がしかったのはどうやらこの口論のせいか。正直、頭が痛い。

「・・・マイツ、悪いがこの剣を鍛え直すのは止めておいてくれ。借り物なんだ。」

エェーと不満そうな声を出す。

側に立て掛けられた鞘を見つけ、マイツから視線をそらして剣を鞘に収めた。

「こんなに面白そうな剣、鍛えてみたかったのに・・・」

それが本音ですか・・・

「せっかく、“闇の羽根”が手に入ったってのに・・・」

残念そうに呟く。

「久しぶりだから、サービスしてやろうと思ったのに・・・」

「くどい。」

まだまだ続きそうだったので、止めた。

「おやぁ?マイドール、反抗期?」

「は?」

「昔はあんなにいい子だったのに。」

背筋に悪寒を感じた。

「ちょっと待て。」

「剣、鍛えさせてくれる?」

「・・・・・・・・・・・・無理。」

かなりの間が開いた。

「しっかし、不思議なんだよな・・・」

肘を付きながら、何故かナルスが作った(ロンジにとっては)朝飯を食べる行儀の悪いマイツがボソリと呟く。

「何が。」

「昨日のあいつら、何か変だった。」

そう言って、スプーンを置き自分の右掌を見る。

相手を直接傷つけた『手』。

「なんかさ、武器を通じて感じない?相手の強さっての?」

スプーンを口に運びながら言う。

「・・・まぁ」

返事を返すと「だろ」と指差された。

「何か変だったんだよ。あいつら、前にもな、手合わせしたこと、あるんだけど・・・」

「喰うか喋るかどちらかにしろ。」

ズルズル、クチャクチャと音を立てながら喋る様子は見ていて鬱陶しい。

すると、がつがつと食べ始めた。・・・普通喋る方を優先すると思ったんだが

「食べる、選ぶ?」

シンにとっても期待を裏切られたらしい。

期待を裏切られながら、とりあえずマイツが食べ終わるのを待つ。

フゥと満足そうなため息をついた。

「ナルスさん、料理上手いねぇ」

誉め言葉にナルスは「どうも。」と苦笑を浮かべた。

「それより、続き。何が気になったの?」

ジェルナが椅子に反対向きに座り、背もたれにグッともたれている。

「あぁ、なんか、前よりも邪悪っての?よくわかんねぇけど、同じ奴とは思えないな。」

「当たり前。魔物、シェラフの、邪気、やられた。」

「ハァ?」

シンの言葉、つながりがよく分からないので何が何にやられたのかわからない。

「あの魔物はシェラフの撒いた邪気にやられて凶暴化していたと言いたいのですか?」

皿を洗い終えたナルスがシンの言葉を訳す。

「そう。」

ナルスの訳に「なるほど」と感心する。

「シェラフの、邪気、蛾の、鱗粉の、よう。通るところ、まき散らす。」

蛾の鱗粉?まぁ、その辺の訳は面倒なので飛ばしておこう。

「ということは、シェラフ(あいつ)がここを通ったって事か?」

コクリと頷く。

「シェラフの、邪気。他の、魔物、全然、違う。他の、魔物。影響された、暴走。」

文章が長くなると、シンの言葉はさらにこんがらがる。

「・・・ナルっさん。訳、お願い。」

自分では訳せないと悟り、助けを求めた。

「そうですね・・・『シェラフの邪気は、他の魔物の物とはちがって、それを被って影響された他の魔物は暴走して襲いかかってくる』といいたいのではないのですか?」

う〜ん、すばらしい。何故そこまでカンペキに出来るのか不思議に思えるくらい綺麗な文章にする。

「じゃぁさ!魔物たちの暴走が発生した地域をまわったら、追いつけるんじゃないの?」

でた。ジェルナお得意の愚者の浅知恵。

「追いつけるわけないだろ。通った後を追いかけたって。」

椅子の背もたれに寄りかかり大きく欠伸をし、伸びをした。

しかし、とナルスが遮る。

「通った後を通ることであの子の進む方を・・・目的地を見つけられるかもしれませんよ。」

それもそうかと納得して座り直す。

 

いきなり後ろのほうからバン!と大きな音がした。扉が開いている。

開いた扉の向こうには息を切らせた様子の青いバンダナをした青年がたっている。

客か?それにしては乱暴だな・・・

「マイツさん!!」

「ハァ?」

扉の処から青年は叫んだ。青年が来ていたことに気付かなかったのかマイツは気の抜けた返事をする。

「ちょっと来てください!私達では手に負えないんです。」

走って入って来た青年はテーブルの前に座っていたマイツの腕を掴むと風のように走り去った。

「・・・なんだ、いまのヤツ」

何となくマイツを連れていった青年を捜し、追いかけることにした。

「あ、あそこじゃない?」

ジェルナが指差す方には灯台・・・の下。船着き場の桟橋。

確かに先ほどの青年と似た色のバンダナをした奴らとマイツに似た髪型をした奴がいる。

堤防を降り、桟橋まで行く。

「何やってんだ?」

「マイドール?・・・そうだ!」

何が そうだ! なんだよ。と顔をしかめる。

「魔物が大暴れしちゃって船が出せないんだって。」

「へー」

あんまり興味なさそうな返事を返す。

「で、頼まれてくれない?魔物退治。」

「・・・で、って何だよ。でって。」

いきなりふられて、戸惑う。

「だって〜俺だけじゃ無理だし。」

「嘘つけ・・・」

恐ろしく強いだろ。と睨む。

「だって〜まだ練習中だもん。」

「だったら、練習台にすりゃいいだろうが。」

と言うより、昔からお前の武器は爪じゃなかったか?

「助太刀でいいからさ。」

「それが嫌っつってんの!」

「何言ってるの!」

追いついてきたジェルナが口をはさむ。

ややこしい時にもう、こいつは・・・

「助けて貰ったんだからその分を返さないと!」

「お前・・・」

「マイツさんのほうが強いのかもしれないけど、頑張ってね。」

笑顔で言う。多分悪気はないんだろうな、本人には・・・

「・・・お前がやれ。」

え〜と嫌そうな顔をする。

「お嬢様は攻撃が出来ないんですよ。回復魔法しか目覚めていませんし。」

後ろからナルスとシンが追いついてきたようだ。

「ほら、君しかいないんだよ。」

ニヤリと妙な笑みを浮かべる。

「・・・仕方ねぇな。」

ブチブチ文句を言いながらも結局戦闘に参加することになる・・・

船は水面の上を行く。

はしゃぎたい気持ちを抑えながら、いつ現れるかわからない魔物に対し警戒を強める。

「と言うより・・・」

少し怒りが感じられる声。

「結局、全員で船に乗るんじゃねぇか!」

うん。とジェルナ達は頷く。

「援護、してあげるから。」

「俺、戦う。」

「私も、力になれましたら・・・」

そういや、マイツよりもナルスのほうが強いかもな。と投げナイフのことを思い出す。

「倒したらそのままカリファイまで送ってやるってさ。悪い話じゃないだろ?」

カリファイとは向こう岸・・・二つ目の大陸、その玄関に値する街の名だ。

「どうせ、戻ってくるのが面倒くさいだけだろ」

船の手すりにもたれる。

「そんなこと言ってあげないの、マイドール。水夫さん達が可哀想でしょう。」

ケケケと笑いながら言うのが気持ち悪い。水夫になんかしたのかこいつは・・・

そうこうしているうちに、甲板に立っていた水夫達の動きが怪しくなってきた。

「来たぞ!」

物見の水夫が叫んだ。と、船が大きく揺れる。

水音と同時に大きな波・・・否、おおきな怪物・・・

「・・・うっわぁ。あいつ、とんでもない奴を目覚めさせてくれたな。」

上半身は美しい女性の姿をしているが、下半身からは犬の頭が六つ生えている魔物。

全体としてはやけにおおきな図体で、犬の頭にはぎっしりと鋭い歯が並んでいる。

「・・・あれは?」

爪をはめるマイツに問う。

「スキュラ。水夫の敵だ。まぁ、昔の話だったはずだけど・・・」

そう言って、甲板の縁に立った。

「水夫共は全員船内へ。それも早くだ。食われるなよ。相手に力を与えるだけだ。」

マイツがおおきな声で水夫達を誘導する。昨日からの様子からは想像できないような真剣さだった。

「ジェルナ様も逃げろ。」

縁から降り、ジェルナの元へ歩く。

「嫌。」

「死ぬぞ!」

きつい声。

「絶っ対。動かないから。」

その目にはしっかりとした意志が感じられる。シェラフの暴走を初めて目の当たりにしたときのあの目だ。

「お嬢様のことは私たちにお任せください。」

横からナルスが割り込む。シンも任せろと首を縦に振る。

諦めたのか、マイツは戻ってきた。

「突っ込んでくぞ。引き込まれるなよ。」

「あぁ。」

先頭両サイドの縁にマイツとロンジを載せた船はスキュラに向かい突進していく。

「戦闘開始!」

かけ声と共に二人はスキュラの犬に向かい跳んだ。

 

 

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