ETERNAL HOPE
6,洞窟の中
「おい。あいつ、洞窟の中に入って行きやがった」
「見れば判るよ」
そうか。と、カイは息の上がった狼の顔を上からのぞき込む。
「どうする?奥まで行けそうか?」
「……人の姿ならね」
そう言って、サンラは元の人の姿へと変化した。
長時間変化していたせいと走ったことで、サンラの顔色は少々悪い。
あまりにもその様子が苦しそうなのでカイは一つため息を付いた。
「お疲れさん。よく頑張った。 ってか、この村から少し離れたところにこんな場所が有ったなんてな…」
ころころと話を変えないでよ…
そう言いたかったが、そんな元気もなかった。
サンラは無言で洞窟の入り口をのぞき込んだ。
「知らなかった、って、さ、どういうこと?」
荒い息とでとぎれとぎれに話す。
「こんな所になんか来たこと無いんだよ。第一、村から出る奴自体まれだ」
そう、とカイに向けられていた視線を洞窟へと戻す。
「暗いね……それにかなり深そう。 本当に行く?」
「ッったり前だ。 何だよ今頃怖くなったとか言うなよな」
そう言うカイの背中の方がふるえているように見えなくもない。
「そうじゃなくて、あたしが言いたいのは危なくないかってこと。相手は泥棒でしょ、仕掛けとか造っていてもおかしくないし、逆にやられるかもしれないよ」
相手は十中八九【選ばれし子】だ。魔術も使えるだろう。
カイのような一般人を巻き込むのはまずいかもしれない。
「それでも、行く?」
サンラは念を押すようにカイに尋ねた。
「ま、その時はその時で、適当に対処しておけばいいだろ」
カイは適当な返事をした後、洞窟の中へと足を踏み入れた。
「本当に大丈夫?
無理して先を行かなくても良いんだよ」それでも、カイは洞窟の内部へとずんずん進んでいった。
洞窟の入り口は暗かったが、奥へ行くと蝋燭の光が洞窟の内部を照らしていた。
おかげであちこち分かれ道もあったが、蝋燭が置かれているのは一本道だけだったので帰るときに迷うことは無さそうだ。
奥に進むにつれて、吹っ切れたのかカイのふるえも治まった。
ふと、二人は足を止めた。
まるで客を招くホールのようなやけに天井が高く、とても広い大広間のような処に着いた二人は少々動揺していた。
「何か、あたし達を招くために用意したような部屋だと思うんですけど……」
「お前もそう思う?……俺も、今思った」
何かの視線を感じる。
やっぱり、罠?
カイは、サンラを止めるように右手を横に広げた。何かを察知したようだ。
「当たりだよ。お兄ちゃんとお姉ちゃん。 だけど、少し気づくのが遅かったね」
どこからか少女のような声が降ってきた。
それと同時になにやらぎしぎしと滑りの悪い滑車のような音がした。
「え?」
見上げると、木でできた柵のようなモノが猛スピードで降りてくる。
それが二人の頭上三メートルほどに迫ってきたところで、ブチリと何かの切れるような音が聞こえた。
その音を境に柵は更にスピードを増して降りてきた。
思わず目をつぶる。柵が地上に降りたのかかなり酷い音がした。
少ししてそっと目を開くと二人は木製の粗末な檻の中にとらわれていた。
「ちょっと、何のつもりよ」
檻の柵を掴み上部に向かい抗議する。
反応はない。が、小声で何か言い争うような声が聞こえた。
「……しよう」
「……から……蔓を新しく……おけって……だろ」
「でも……」
はっきりとは聞こえないが、先ほどまでの少女の声と一緒にまた違う少年の声が聞こえる。
少しの間を空けて、二つの陰が上から降ってきた。
一人は八百屋の泥棒。もう一つはその子を途中で背に乗せた熊だった。
よく見ると、八百屋で見かけたときはもっと大きく見えたが、九歳頃の子供のようだ。
「誰?」
「捨て子のコソ泥」
「捨て子のコソ泥って……」
相手があっさり返してきたので反応に困ってしまった。
「何か僕に用?」
「何か用?じゃねぇよ。大体判るだろ、来た理由ぐらい。ってか、まずここから出せ」
カイは声からして怒りかかっている。説教を始める前の村長と似ている様に思えた。
「どうする、カルド。出すにもこれじゃぁな」
泥棒と一緒に飛び降りてきた熊が喋りながらのっそりと前へと進んできた。
少年の声だと思っていたのはこの熊の声だったようだ。
「クマが…喋ってる」
さっきまでの様子とは一変して、異様な光景に絶句するカイ。
へたりとその場に座り込みながらも、檻のできるだけ端へと後ずさって行った。
「ねぇ、その……クマが喋っているのって、選ばれし子の力なの?」
腰を抜かし高いとは対称的に、冷静に尋ねるサンラ。
「エラバレシコって、何だ?」
首を傾げる泥棒。どうやら知らないようだ。
「いや、選ばれし子の力は関係ないさ。僕は【緑樹の宝珠】・イーストだ。いるんだろ、ウー」
イーストと名乗る熊は、カイの方を向いて呼んだ。
きょとんとしていたカイだったが、彼の持つサンラのポーチが光り始めた。正確にはポーチではなく中に入っている宝珠のようだ。
カイは慌ててポーチを放り投げた。
かなりの勢いで投げたらしく、サンラの横を通り、檻の隙間をすり抜け、イーストの目前に落ちた。
すると、宝珠の光がポーチの外へ出た。その光はみるみるうちにイーストと同じぐらいの大きさの狼の姿を現した。
「……久しぶりだねぇ、イースト。何年ぶりだい?」
狼は大きなあくびを一つしてから目の前の熊に向かい話しかけた。何年ぶりと言うところから、知り合いなのだろうか。
「およそ千年。忘れたようだね封印を」
「そんなに経つのかい。ずっと寝ていたからねぇ……忘れていたさぁ。 んで?あんたら誰?」
狼はサンラ達の方を向いた。
あきれたように軽く首を振るイースト。
「あたしはサンラ。で、後ろのが」
「カイ」
カイは震えは止まったようだが、まだ立てない様子だった。
少しの間狼にじっと凝視されていたが、いきなり吹き出された。
「檻に入っちゃ、人も滑稽だねぇ」
何だか知らないが酷くしゃくに障る奴だ。
「おい、ウー。お前この子の守護獣だろうが。しっかり役目を果たしなよ。
本来なら、宝珠にあのサンラちゃんとかいう子が触れたときに反応するんだろうが。そういう封印だろう?」封印?あたしが触れたときに反応?
訳の分からない二匹の会話だが、内容的に、自分が関わっていることは判った。
「あぁ、そうだったかなぁ。サンラっていったねぇ……やっぱりこんな小娘のお守りって嫌だわぁ」
……やっぱりしゃくに障る。
こちらから願い下げたいところだが、内容も判らないので勝手にはできないと思われた。
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