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card
Level.2
 
六枚目
「うぁあぁぁぁぁぁぁぁあ!」
一度入ったとはいえ、足場がなくなるのは慣れない感覚だ。
まぁ、慣れたくはないが……
 
“また来たか、騒がしいの”
聞き覚えのある声が聞こえた。
騒がしいのとは失礼だが、言うほど気に障りはしない。
 
当たっているから……
 
 
 
お久しぶり、と言うほどでもないけど。
 
答えるように笑い声が聞こえた。
 
 
 
チャイと別れてから一泊して、例の城に戻った。
昨日の間に退治した魔物の一部がカードを落としていったからだ。
「雑魚カードだ」とは言われたが、レベル上げのためなら枚数が必要だ。
 
 
“ふむ条件は達しているようだな”
 
雑魚中の雑魚カード【ジェル】×4がLevel2への条件。
町の中にいても放置される程度の魔物だ。どこでも見つかる。
が、鬱陶しいんだこいつが。
 
 
 
カードの本体とは別に分身がたくさん生まれる。
ケルベロス戦でもあのたくさんの狼はケルベロスのカードからの分身だった。
一匹倒しただけでは手に入らないと言うのが難だが、運良くあっさりカードとなる奴が見つかった。
 
 
“おぬしはこれをもってLevel2へと昇進した。能力が幾らか上がったはずだ”
 
これをもってレベルアップ。とか言われてもなぁ……
 
 
能力が上がったとか、確認ができないからどうしようもない。
 
“確かにどうしようもない”
……
 
 
返す言葉も見つからず、白い空間をにらみつけているといきなり眠気が襲ってきた。
“カードが集まればまた来るがいい”
強制退場だ。
 
 
これ以上いる気もないので、おとなしくそれに従った。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうしようもないとか、強制退場とか。一体ここはどうなってるんだ」
聞くところを間違っている気もしなくはないが、そんなことはどうでも良いんだ。
 
カードもだいぶ上手に使えるようになった。
御陰で一人この城までやってこれた。
 
 
 
 
カードは、基本二通りの使い方があるそうだ。
一つは、初めてカードを手にしたときに使った【武器】として。
もう一つは、実体化させる方法。
チャイがエンテイを使うときにしていた方法だ。
召喚!!的な感じで格好いいのは格好いいが、かなり疲れるので正直やりたくない。
でも、実体化したフェイクに乗らないとこの城へたどり着くことはできないようだ。
 
 
 
 
 
 
 
城の外には食堂兼酒場と簡易宿があった。
 
なぜ、前回気付くことができなかったんだろうな……本当に。
 
 
 
今は用もないのでとっとと退散する。
【アケオロス】を呼び出してさっさとここから出てもよかったが、無性に林の中に入ろうと思った。
「明るいし、アケオロス出したらすぐに出られるし」
何故か自分に言い訳をしながら城を囲む林の中へと入っていこうとした。
 
 
「うわ、ストームちゃんやん。またでおた♪」
聞き覚えのあるうさんくさい関西弁。
それに伴い背中に重い物がのしかかる。
 
 
 
まったく、誰だ。
通りすがりの人にいきなり抱きつき攻撃とは変態か?
 
 
「げ」
振り返ると、見覚えある特徴あるコート。
だが、何か違う。
「……イノコ、なの?」
「大ッ正解〜♪」
ぱーっと花散らしスマイルの青年はかつて更紗のカードを狙った盗賊イノコだ。
印象が違うのは前髪が上がっているからだろう。
 
金髪にオレンジのカチューシャておい。
パラパラと止め損ねた長い前髪がおちている。
 
「どしたん?」
「いや、何か前会ったときとだいぶ印象が……」
すると、頭のカチューシャを触りながらニッコリと笑った。
「ええやろ、かのこがプレゼントしてくれてん」
自慢自慢。と自分で言いながら、更紗にみせる。
「かのこって―――ッ」
「おんどりゃー。なにしてはんねん」
誰?と尋ねようとしたところで、ドロップキックが乱入してきた。
そのドロップキックはイノコにクリティカルヒット。
 
 
 
ど派手な登場をしたのは更紗より歳は上に見られる女性。
 
まさにゲームの世界特有のあのライトアーマー的な服装。
灰色ずくめでモノトーンかと思いきや、深い緑の長い髪が異色だ。
しかも、目隠し?
灰色の布で顔の上半分が覆われている。
 
 
「うち、あんたにあれだけ呑むのやめとけゆーたやろ。アホ!」
強烈な罵声が、踏み倒されたイノコに降りかかる。
「ストームちゃん……助けて」
 
……今気付いた。
笑っているように見えるのはイノコが元々糸目だからだ。
「ん〜?この子誰や?」
踏みつけたまま、女性はこちらを向いた。
「す、ストームですが」
あぁ。と横手を打つ。
「あぁ、この前標的になった妙な少女ね。よー聞いとります。このアホから」
下を指さす。
イノコがにへらと力無く笑って……笑ってはいないがいる。
「かのこちゃ〜ん。のいて〜な〜」
イノコの言葉でゆっくりと降りた彼女がどうやら【かのこ】らしい。
 
「あんたがストームさんか」
「え、えぇ」
「うり坊がカード取るの失敗したっていう」
こ、こいつ……言い方からして根にもつタイプだな。
「かのこちゃん、やめといたり。困ってるやん♪」
まだにへら笑顔なのは糸目のせいだけでは無さそうだ。
「……ストームさん。ちょっとええ?」
「はぃ?」
「こいつ、ぶん殴ってやって」
「え゛」
 
 
「え〜っと、えらいすんまへん」
でっかいたんこぶを作って、机にデコをなすりつけるようにして謝るイノコ。
「いや、もういいですって」
「よーない。しっかり謝らんかい」
この関西弁炸裂の強烈キャラ達にすっかり捕まってしまっていた。
 
あのあとかのこさんのホイッスルで見覚えある黒覆面が一人酒場から出てきた。
そしてイノコをぶん殴った。
気を失ったことを確認してから、かのこがさんざん謝ってくれた。
 
「ほんま、すみませんでした。うちのアホが」
「いえ、何もされませんでしたし」
「ちゃうねん、こいつな酒呑むと誰彼かまわず花散らしスマイルでつるむんやから。先に止められてよかったわ」
そう言われると、ちょっと苦笑が漏れたがここまで謝って貰う必要もない。
 
「うちが見てへんうちにふらぁと出ていってしもて」
もういいって言っているのにこの人は……
「本当にもう良いですって」
「ほんまか?」
って三回目でいきなり、元気になるな。
 
それっきり、イノコも許して貰った雰囲気をまき散らしながら笑顔で更紗の方を見た。
「そういえば、ストームちゃん仲間おったよな」
「え?」
「ほら、赤い髪しとった」
「あ〜」
チャイのことか。
「昨日別れました」
え?と酒場内が固まった。
 
なんだこの反応……
「そうか、酷い男やな。こんな可愛い娘捨てるなんて……」
ちょっと待ったぁ
「ち、違う。そういう意味じゃなくて」
「ええんよ。大丈夫や、いい男なんてこの世界に星ほどおるからな。ってそんなにおらんわ」
ひとりノリツッコミ。
はい、どうでもいいです。
 
「……こいつみたいなアホも多いけどええ男もなかなか見つからへんがおるもんはおるんや」
「誰がアホやて?こんなええ男」
「うるさい、鏡見たことあるんか糸目の三枚目」
もういいです、好きな方向に話をしていてください。
 
 
 
 
「かのこちゃん」
「なんや」
「無視されるとおもろいもんもおもろ無いな」
「せやね」
急に冷めた目でこちらを見ないでください。
そしてあからさまなため息を付かないでください。
 
「だって、人の話聞かないじゃん」
「聞いてるよ〜?」
「……うちらなりに」
それがいけないんだって。
 
 
 
「じゃぁ、ストームちゃん一人旅?」
「えぇ。まぁ」
「……うちらの仲間にならへん」
いきなり何を聞いてくるんだこいつらは
「だれが盗人なんかに」
「うわ」
「この子酷いなかのこちゃん」
「確かに酷いな」
誰か、助けてください。この人達の相手は、無理です。
 
「こっちかて何の意味もなしに誘っとるわけちゃうねん」
じゃぁなんでと問い返す。
「助っ人が欲しいから」
面と向かって言われると、なかなか困る言葉だ。
「何で私が……」
「それはね〜。僕の好みやから♪」
「ちゃうやろ」
一瞬真剣に聞こうとした私がバカだった……
一発横から殴られて、張り子の虎みたいに頭がグラングランしてるイノコを無視してかのこが溜め息混じりに口を開いた。
「正体ばれたし」
「はぃ?」
「こんのアホが、いっつも偽名使えゆーてんのにきかんと本名さらしよる。しかもやな、うちの名前まで出してきよってからに」
確かにそうだ。
あまりにも堂々と名乗るので盗賊とは思わなかったし。
 
「まぁ、ハンドルやから本名や無いけど」
「え!?」
 
 
この人、今、なんて言った?
 
 
「ハンドルネーム?」
「せや」
じゃ、じゃぁこの世界とは……
「かのこちゃん。だからそのはんどるねーむって何やのん?運転すんの?」
「あんたはだまっとり」
イノコの反応からして彼は多分知らない。
この世界の人は知らないんだ……
「異世界、カードキーパー……」
「よう、わかったな」
 
七枚目
かのこの言葉につられ、いつの間にか着いていくことになった。
「かのこちゃんはな〜ここで倒れとってん」
そう言ってイノコが指さしたのは城からそんなに離れていない林の中の崖。
「この世界とは違うところから来たとか、電波なことばっかり言いよるさかい頭打った狂人と思っとったんやけど」
「誰が狂人や」
「見てのとおり意気投合してしもてな」
「どっからどう見たら和気藹々としとんねん」
「は、はぁ……」
 
着いてこなければ良かったかもとか思いながらも、逃げるつもりもない。
と言うか、二人は漫才しかしてない。夫婦並の息の合いかた。
って夫婦漫才かい
 
……うつってしもたがな
 
 
彼等盗賊団のアジトが近いらしい。
なぜか、メンバー入りをせざるをえない状況になっていた。
そう言うわけで、アジトを目指す。
歩きながら、さっきの話の続きをした。
 
「……拾われた前のこと、覚えてる限りうり坊に言ってみても通じひんし。これはキたなって思たよ」
「何が、きたの?」
「異世界」
そりゃ、まぁ。こんな風景とこんなおかしな人達見てたら。
「しかし、ほんまに変な話や」
「何が?」
「この世界」
確かにおかしな話ばかりだ。目の前にいるかのこも含めての話だが。
 
「うちはただのゲームやとおもったんよ。せやけどどうやら違うらしいねん」
「オンラインゲーム【card】……」
「そうそう、それ。ッて、ストームさん、あんたも?」
「うん、そう……みたい」
「そうか」
表情が見えないけど、何となく伝わる。
考え込んでいる。
困っている。
 
頭の中を次々に聞きたい事が渦巻き始めた。
 
だけど、一番聞きたいことは聞けない気がした。
 
 
「いつから、入ったの?」
「うちは……せやな、1ヶ月近く前や」
「そ、そんなに?」
プレイの大先輩だ。自分なんか三日だぞ。
「一ヶ月ちこう、元にもどれへん……」
哀しそうな声。
彼女もまた、自分と同じように失ってしまった世界の大切さに気付いたのだろう。
「やっぱり、戻れないの?」
「わからん」
少しの期待。だけど、絶たれている望み。
「まぁ、うちは引きこもりやし。いなくなったところで誰も心配せんわ」
元気付けの言葉だったのだろうが、更紗の心臓に音を立てて刺さった。
無理矢理明るい声で言う様子も返って苦しい。
「そ、う……かな」
それを言うので精一杯だった。
 
 
「何喋ってんのん?もう着いたで」
イノコに声を掛けられ、顔を上げてみると目前に木造の小屋が建っていた。
 
大きさで言えば、中の上。
集合団地の一軒家よりは大きそうだ。
「仲間が待っとる。はよ入りなはれ」
扉を開け、手を大げさに回し礼をしたイノコの隣を戸惑いながら通り過ぎる。
と、そこにはたくさんの人が密集していた。
 
 
 
 
「今のところのアジトや。即席やけど」
かのこの言葉はほとんど耳に入ってはいなかった。
 
大きいし広いのはともかく、内装が……
 
 
「さっきの酒場……」
「まぁ、イメージがそれやからな」
コピーして張り付け。それくらい同じ。
中にいる人はやっぱり顔を隠す人が多くて気持ち悪いっちゃ気持ち悪いけど、さっきの酒場だってそんな人は多かった。
あっちは多分防具的な物だけど。
 
「みんな酒場みたいな空間が好きやさけな」
「アホ言うな、一番好きなんはあんたやろ」
それもそやなと笑うイノコ。
 
 
「んなら、本題いこか」
 
 
 
 
 
 
 
 
イノコの合図で、全員が各々軽く姿勢を正した。
 
「今回の作戦はウサギさんな」
ウスという声が上がる。
「う、ウサギ……」
統一されているのはわかるが、ウサギさんって
「しずかにしとりなはれ、後で説明したるさかいな」
かのこが隣でささやいた。
そっと見上げると、唇に人差し指を当て静かにと促した。
 
「ほんでやな、中心はいつもみたいに僕とかのこちゃん。んで、新メンバーやね」
「名乗り」と背中を押されて、ちょっとおどおどしつつ前に出た。
「す、ストームです。……よろしく」
はぁという呆れ溜め息に近い声が挙がった。
 
「い、いきなり中心とか、聞いてないんですけど」
小声でかのこにささやく。
「言うてないもん」
 
当然のように言わないでください
 
「心配せんでええよ。ここの人らは新入りがいきなり上にいっても嫉妬はせぇへン」
「いや、そんなこと聞いてないし」
 
笑っていた口元が急に引き締まった。
「ちょい、よぉ聞いて欲しいことがある」
「え?」
「今言う話や無いから、後でな」
 
それだけ言うと、イノコの演説中だというのにアジトから立ち去った。
 
「ストームちゃん、きいとる?」
「あ、ははぃ」
いきなりイノコから声を掛けられ、中途半端な返事をする。
「そう、ならええんや」
前にむき直し話を続ける。
 
 
外に出たかのこの事も気になったが、周りはちっとも気にした様子を見せない。
 
どうやら、今は話を聞くことを優先した方が良さそうだ。
 
 
 
 
 
 
イノコの作戦会議は正直に言うと意味が分からなかった。
ズドーンだのアワアワだのチョイチョイだのガーだの
アレは説明ではない、ただ擬音語を並べただけだ。
なんなのよ、「ほいってやって、きゅってやったらできるさけ」って……
 
意味不明なんですよー
 
 
ハァ……本当にできるんだろうか、ここで。
 
 
ぼけーっとアジトの出入り口の階段で座って油を売っていると、森の方から人影が近付いてきた。
どうやら、外へ出ていたかのこが戻ってきたらしい。
 
「ストームちゃん」
「あ、お帰りなさいかのこさん」
ふっと柔らかい笑みがかのこの顔に浮かんだ。
「こんな所でぼさっとしくさったらあかんで。風邪ひいたらえらいこっちゃ」
「は、ハイ。スミマセン」
「謝るこっちゃ無いけどな」
「はぁ……」
 
立ち上がろうとしたが、かのこに肩を押さえられて強制着席。
その隣にかのこも腰を下ろした。
 
 
「ストームちゃん」
「はい?」
「明日行くとこな、多分うちらに関係すると思う」
「え?それは……」
「いきなりな話しやけど、進入先のアホの家、どうやらうちらがこの世界に迷い込んだ原因やないかと疑っとんねん」
「……そんな、馬鹿な」
「うーん、確信は持てへんねんけど、アレやさけな……」
「?」
「まぁ、明日行ったら解るやろうて」
すっくと立ち上がって、扉を開けようとした。
かのこの後ろ姿を見ていて、何かすっかり忘れていたことに気が付いた。
「待って」
「?」
「あの……ウサギさんってなんですか?」
「あー」
思い出したと回れ右をして元の位置に座り直した。
 
「とりあえず流れに任せて団体行動って事や」
「え゛」
 
流れに任せてって、全然作戦でもヘッタクレもないような気がする。
 
 
「まぁがんばり。初任務やさかいな」
「はぁ……」
 
初任務前だというのに、拍子が抜けた気分である
 
八枚目
 
こちら、さらs……いや、ストーム。
ただいま、潜入捜査中です。
潜入先は聞いてませんが、何だか暗いお屋敷です。
 
隠密行動のハズなのです。
が……
 
「ネェサン強いなー」
「やろ? ンなわけで、賭けたもん全部いただくし」
そう言いながら、かのこはテーブル上に整列するカードを一枚一枚自分の方に引き寄せた。
 
はい、何故か潜入先の相手とカードゲームをしています。
 
「あの、いのこさん……」
敵方に聞こえないよう、小さな声を掛けた。
相手は長い前髪の隙間から本当に見えているのか怪しいくらいの細い目をこちらに向けてきた。
 
作戦中はカチューシャを外すのがマナーとなっているらしい。
誰がするんだ、カチューシャなんて……
 
「なんや?」
「なんですか?これ」
これ?と手に持つカードを掲げた。
「カードゲームやけど?」
「それはみればわかります」
「わかっとればそれでええねん」
良くないって……
「心配あらへん、ここはかのこに任せといたら」
はぁ……
「今はわからんくてええよ、後から解るさけ」
 
そう言われて、仕方なく黙っていると、あることに気づいた。
いかさましてる?
 
カードゲームはトレッドカードを使うゲームだった。賭け金もお金じゃなくて場に出されたカード。
テーブルは特殊な構造をしているらしく、場に出されたカードに書かれた名前が自動で消されたり書かれたりしている。
 
ルールは割と簡単。
4×4の場にトレッドカードを置く。
トレッドカードの片隅に描かれた四つの数字で左右上下置いた場所の隣のカード自分の物にできるかできないかが決まるのだが、かのこのカードに描かれている数字が場に出るたびに微妙に違う気がした。
同じカードなのにさっき8だった上の数字が3になっている。
そして、そのカードが今、相手に裏返された。
 
まさに八百屋の長さん。いわゆる八百長。
いかさまして負けようとしているようだ。
 
だが、いったい何のために?
 
 
答えはそのうち解ってきた。
程良く勝ち、程良く負けると『会話が進む』のだ。
 
「せやけど、あんたらええの?」
「なにが?」
「勤務中とちゃうん?」
「あー、まー。そうなんだけどさ」
サラサラと負けた二枚から持ち主の文字が消え、新しい文字が浮かんだ。
「おっし貰い」
「あー、やられた」
わざと痛手を受けたように大げさに手を額に置くかのこ。
場のカードは全て相手の名を刻まれていた。
相手も嬉しそうに回収にかかる。
「ここ、意味不明なんだよねー」
「何が?」
 
 
「厳重警備体制とか言いつつ、最近ここの人たくさん兵士を雇ってんの」
「あーそうそう、それ聞いて僕らも来てん。ここ」
「そうか!……だが、退屈だぞ」
「こうして遊ぶくらいにけ?」
「そ」
 
ふぅんと返して、ちょっと考える素振りを見せた。
「んで、ここの人ってどこにおんの?来てみてんけどわからんくて。なぁうり坊」
「せや」
「……悪いが、俺も知らなくてな」
「なぁんや。じゃぁ、どこで雇てもろたらええんやろう?」
「あぁ、五階以上に怪しい部屋とか何とか同僚に聞いたな」
「五階もあるんですか?」
すごいよ。五階建てって近所のデパートでもそんなに無いよ。
「あるらしいよ。俺らは三階までしか許可貰ってないけど。
あーあ。新入りでもっと上の階に行ける奴とか居るのに、どうして昔からここにいる俺はいけないんだろうな」
 
ぼやき始めたよこの人。
思いっきり愚痴だよ。
 
「兄さん、ゲームありがとうな。楽しかったわ」
「あー、こちらこそー。君たちが無事に雇ってもらえることを祈っててあげるよ」
「親切にどーも」
 
 
 
「ちゅうわけで、話は聞いたな?」
「えっと。上の階に行けば良いんですよね」
「その通りや。うり坊、検索かけて」
「もー、かのこちゃんは人使い荒いのー」
そう言いながら、ポケットからカードホルダーを取り出した。
「えーっと、でてこーい」
適当に呟きながら、手のひらに張り付くカードを上に掲げる。
 
音もなく光の波動が円形に広がった。
 
「ん。じゃぁ、こっちらしい」
波が屋敷の彼方へと消えてしまって少しすると、道案内をするようにイノコが歩き出した。
 
「今のは?」
「検索かけただけや。うり坊は【雷属性】やさけ、特殊効果で使えるんや」
【雷属性】?
それは私が【風】と【水】の属性を持つとかいうやつと同じなのかな?
 
その問いを察したようにかのこは説明し始めた。
「せやなぁ……この世界の人には属性がやどっとって、それがカードとの相性に関わるとか無いとか。特定の属性の人が同じ属性のカードを使うと、それが何のカードであれ特殊効果が得られて、そいつだけの行動ができるとか」
「……もう一回御願いします」
理解が追いつきません。
すると、かのこは苦笑を浮かべた。
「あはは……要は、特定の条件を満たした人だけが使える能力があるって事や」
わかったようなわからないような複雑な想いだ。
 
「ちなみにうちは【風属性】な」
「はぁ……」
何だか、生返事を返すほか無かった。
 
「けんど、ストームさんはあれやな、水属性やろうに一枚しかもっとらん」
え?と振り返ると、かのこの手にはいつの間にポケットから出されたのか、自分のカードケースがあった。
「ちょ、ちょっと!!」
「心配せんでもええって、盗らへんから」
「いや、そうじゃなくって!」
「?」
駄目だ、この人も……
 
ふと、先ほどの行動に疑問を抱いた。
「かのこさん、何で私の属性が?」
「?そんなん、髪の色から判別できるで」
当たり前だというように言わないでください。
 
「【水属性】やったらアレやな、水ン中で息ができる。羨ましい限りや」
「え?そうなんですか?」
「せや。知らんかった?」
知りませんよそんなの。
「そうか。へー」
へーって何ですか!
 
「もー、かのこちゃん。いくらストームちゃん気に入ったからって……はぐれたらあかんで」
「はぐれてへんやん。うちらここにおるわ」
「そうか、いたら別にええ」
 
後半の声が違った雰囲気を持っていた。
前を向いたイノコは壁に体を貼り付けた。
と同時に、かのこが頭を押さえつけに来た。
 
「な、何するんですか!」
床で打った鼻を片手で押さえながら、隣に伏せるかのこを見る。
「うるさい。ちょっとだまっとり」
だいぶ音量を落とした声でささやかれた。
 
そんな雰囲気を醸されては下手に動く勇気も出ない。
床に張り付きながら、次の指令を待つ。
 
 
風が吹き抜けた。
 
ものすごく、速い風だった。
 
「かのこさん、今の」
「カードやな」
目隠しをしているというのに、彼女の鋭い目が見えたように思った。
 
「もう一匹、更にでっかいの来るで」
イノコの声に顔を上げると、前髪の上を何かがかすった。
 
「……蛇?」
少しだけ見えた鱗に覆われた細長いからだ。
水色に淡く発光していた。
「竜やね。中等カードや」
 
 
「検索かけたさかい、怪しまれたんかもしれんな」
腕を組み、壁から離れたイノコはこちらに歩いてきた。
「どう、するんですか?」
伏せた体に付いたよごれを払いながら、立ち上がるとかのこは天井を仰いだ。
「せやなぁ……うちらがすることはおおっぴらに歩くことやさけ、捕まってもよかったんかな?」
「あー、まー、そーかもなー」
 
……ちょっと待って
「でも、雇い主に会いに行くんでしょ。雇われの変な奴に捕まるとまずくないですか?」
一拍置いて、二人がこちらを見る。
「な、何ですか?」
 
「めんどうやし、このままいこか」
「え゛」
 
「直接会えたら一件落着やし、捕まったら捕まったで、理由を言えば通してもらえるやろ」
「下手に逃げることだけは避けといた方がよさそうやけどな」
「せやね。それだけは気をつけよーなストームさん」
 
それって
「私が聞いたことの答えとして、いいんですか?」
「ええ事にしとこーなー」
「いい加減面倒になってきたわ」
 
スタスタと歩いていく二人の背中。
こんな所に取り残されてはたまったものじゃない。
「……わかりました。ついていきます」
待ってくださいと追いかけても、止まってくれる様子がなかった。
ほんと、何なんだろう、この人達は……
 
 
九枚目
ちょ、ここどこ!?
目の前には黄金の装飾の大きな扉。
どう考えても2~3mはありそうだ。
 
「何、この富の権化みたいな扉は……」
呟くと扉の左右に立つ銀の鎧がこちらを見た。
……飾り物だと思ってた。
 
どうやら、今室内にいるらしい。
先ほどまでウロウロしていた廊下とは一変して、もう赤青金の素敵なお部屋。
イノコやかのことはぐれてしまったのが気になるのだが……
 
というのも、あの後
後ろから誰かに捕まってしまったのだ。
 
隊列的には前方イノコ。後方かのこと私という風に入ってきたときと同じ様子で歩いていたのだが、かのこが少し前に進んだすきに、私はでかい腕に体を捕まれてしまった。
 
まじで、気付いてよかのこ。
 
気を失って、次に目が覚めたら今でした。
そんな話。
 
っていうか、豪華な部屋に連れ込むって言うのはおなじみとして
何で扉の前の床に何の配慮もなく倒しておくの!?
ベッドだって何かそこにプリンセスベッドが置いてあるじゃん!
 
 
 
あれ、何のおなじみ?
私、何を期待していた?
 
 
 
「あぁーーーーーー」
 
脱力。
 
鎧達が怪しがってこちらを見ている。
それもそうだな。
 
どうすればいいのかわからない。
あぁ、あの二人は大丈夫なのだろう……な。多分。
 
鎧は先ほどからたまにこちらを見るだけでびくともしない。
そりゃぁ、そんな重装備してちゃ動けないだろうな。
絶対飾り物をつけてるって。それ、実践向きじゃないって。
ちらちらこっちみないでよ鬱陶しい。
 
とにかく、私が今、どこにいるのか知りたい。
それにはやはり、鎧に聞くしかないのだろうか……
 
「あの、ここはどこですか?」
「……」
「私、さっき廊下を歩いていたと思うのですが」
「……」
何か言ってよ。
「あのー」
 
口を開きかけた時、隣から激しい音が聞こえた。
でかい木の椅子を倒したときのような音だ。
「ちょっときいてんの?あんたら!!」
「いい加減、答えぇな!!」
「うんともすんとも言えんのかい!!」
聞こえる音はだんだん過激になってきた。
ガシャンと金属の崩れるような音には、その金属とは隣の部屋の鎧ではないかとあんじられてくる。
 
あぁ、あの人だ。
隣にいるんだねかのこ……
 
こちらの鎧達は顔を見合わせた。
「……もう少し待てば、主が会いに参ります」
右の鎧が若い男の声を発した。
動揺が受け取れる。
 
 
かのこ、ありがとう。
 
 
 
 
どれくらい経ったかはわからない。
鎧達にいくつか話しかけてみたけれどほとんど無言で返された。
 
「我々は鎧です。飾り物として扱いください」
無言問答に悪い気でも起こしたのか、終いにはそう言い出した。
そんな事言う鎧がどこにいる。といいたいところだが、雇い主の条件ときたら仕方がないのかもしれない。
まったく、悪趣味きわまりない。
 
 
 
またまた暫くして、扉を叩くノッカー音が聞こえた。
「どうも」
大きな音を立て開いた扉から
ふんぞり返った、でぶっちぃ金髪のあからさまな貴族男が現れた。
 
そりゃぁ、まぁ、いきなりそんなのが現れると警戒したくなるわけで。
にらみつけると体の割に小さい顔が笑みの形に歪んだ。
「先ほどまでのご無礼を許していただけますかな?異世界の貴婦人殿」
先ほどっていつからいつまでだよ、本当に。
 
ってちょっと待って。
「私が異世界の者だと知っていらっしゃったんですか?」
「当然だね。私が招待したのだから」
本気なのー?なんかやだなー
 
「全くお隣の方に招待状を送ってもなかなかこちらまで来ていただけませんでね。
待ちくたびれてあなた様に送ると今度は二人そろって来ていただいた。
少し複雑な心境ですよ」
まぁ、確かにそれはそうかも。
でも、なんかイヤー
 
「じゃぁ、私にメールを送ってきたのがあなた?」
「その通りです。私の名は……面倒なのでジャックとおよびください」
なにそれ。面倒とかっていいの?
「失礼。名は長いため愛称でありまして」
「わかったわよ。どうせめちゃくちゃ長いんでしょ?名前の間の・が十個ぐらいいる」
「はは、残念ながら十とはいきませんが、そうですね四つぐらいでしょうか」
十分だよ。そんだけあったら。
「ところで、そちらの名は?」
 
「あぁ、すt……」
ストーム、と言いかけて止めた。
 
名前を知れば、相手のことなんて筒抜け。
だから知られてしまうと困るときは、愛称を使えと作戦前にイノコから効いた。
そして、更紗も、名乗らなければならない時のために愛称をつけて貰った。
「すっ、スコンブ……です」
「……」
場が凍るって言う表現はこういう時に使うんだね。
 
「スコンブさんですか。ハハッ」
一拍置いてジャックが笑った。
まぁ、こいつが笑うのはいい。普通だ。
だが、鎧!笑うな。むかつく。
カタカタ音を立てるな。いらつく。
 
「すこんぶお好きですか?」
ジャックが手を叩くと、見慣れた赤い小さな箱が女の手によって運ばれてきた。
「まぁ、割と」
何で用意されてるの……
「僕も好きでねー。いつも用意しているんですよ。お一つどうぞ」
なるほど、了承。
言われるままに一箱受け取るとポケットにしまった。
 
「さて、まぁ紹介は済んだことですので本題に入りましょうか」
立ち上がったジャックは着いてくるように促した。
 
もうとっくに日が落ちているせいか、窓があっても廊下は暗い。
蝋燭は窓からはいる風によって消されていた。
ジャックがカードを使い、蝋燭の火を全て一瞬でつける。
「便利ー」
「そうですねぇ。まったく」
煉瓦造りの廊下をずっと歩き、階段を上り、また歩いた。
「どこへいくんですか?」
「屋上にちょっとした仕掛けをご用意しました」
「はぁ」
「いけばわかりますよ」
言うが早いか、その場で一度止まり、階段を上った。
 
綺麗な星空。その下には……
「え゛」
淡く紫色に発光する妙な液体の入った巨大なガラスのタンク。
タンクの台にはあからさまに怪しい機械がある。
「なにこれ」
「説明は後でさせていただきます。スコンブさん」
ごめんなさい、その名で呼ばないで。
 
「では、こちらに」
後ろを着いてきた下仕えのような女が来るように促した。
 
言われるがまま、着いていく。
はしごを登りながら、不安に思う。
 
なぜ、私が上を進まなきゃならないの?
 
「どこへいくつもりですか?」
「上です」
上って……この状態で言うとやっぱりタンクの真上?
「申し訳在りません、ご無礼をお許しください」
「え?」
頂上に到着した時、いきなり後ろから押された。
「ちょ、ちょっと!!」
派手な水しぶきをあげながら、落ちた。
 
 
 
気持ち悪い。何この水。
 
とっさに吸い込んだ空気はすぐに無くなった。
上がって空気を吸いたいが、蓋を閉められた。
空間がない。
水を飲んだ。
苦しい。
 
クッ。
助けて……
 
 
ポケットが光った。
 
頭の中に、声が響く。
『【水属性】やったらアレやな、水ン中で息ができる。羨ましい限りや』
 
 
助けて。アケオロス!!
 
光がいっそう強くなり、実体を得たカードはその細長い体で更紗を包んだ。
「アケオロス……」
 
 
安心感、体が楽になった。
 
“ご主人。もっと力を知っておくべきだ”
口を利いた蛇は笑ったように見えた。
 
「ジャックさん!!何のつもりですか!」
鋭い目が、こちらに向けられた。
「抵抗するつもりかね?無駄だよ」
 
“この水、毒薬が混ざっている。本体を叩く”
こちらを向いていた蛇の顔が外に向かった。
大きく口を開き、水中を噛んだ。
 
何!?
 
蛇の口元に水中の紫が集まっていく。
蛙だ。
透明になった水の中に紫色の蛙が姿を現した。
「だめだよ、飲み込んじゃ!そんな得体の知れない蛙」
“心配するな。食しはしない”
蛇はナイフに変化した。
“主人とどめを”
わかったわよ。
慌てて逃げようとする蛙をそのてっぺんから刺してやった。
蛙は光を纏うとカードになった。
金色の文字が入っている。
「私のトードが!!」
ジャックが大声を上げる。
「毒殺するつもりだったの?まったく……
アケオロス、ここから出るよ」
“了解”
 
 
アケオロスのナイフは思った物を何でも切ることができる。
ガラスのタンクもまたしかり。
「でえぇや!」
流れ出る水と共に外へ押し出された。
 
 
十枚目
水の襲来に逃げまどう人。
どさくさに紛れ、更紗はジャックに馬乗りになるとナイフを喉元に突きつけた。
「あなた、何をするつもりだったの?」
「どうするんだい、そんなことを聞いて」
この場で笑えるとはだいぶ余裕があるようだ。
 
「本気で聞いているの」
「ハハッ。面白いお嬢さんだ。いいだろう、話そうか。この僕の行動を」
歪んだ口元が、更に裂けた。
 
 
 
異世界の存在を知ったのが、ずっと昔。
この世界に幽霊話が流行っていたときだそうだ。
幽霊はあちこちで見かけられた。人の形ではあるが、薄い紙のような形状で、現れたり、消えたりした。
 
「僕は知ったのさ。他の誰か何かが、この町に侵入していると」
暫くして、幽霊達の姿は見えなくなった。
だが、その時には彼等の正体をすでに掴んでいたという。
「オンラインゲームと呼んだね。君たちの世界では」
「!!」
「そう、オンラインゲーム『card』は実在した。舞台は……ここだ」
 
「彼等が私達の前に姿を現したのはただのバグに過ぎなかった。
しかし、今ではバグも消え幽霊達は姿を消した」
 
「だが、接触は不可能ではなかった」
にやりと笑う姿に、背筋に悪寒が走った。
 
 
「こちら側でバグを起こし、向こうを呼ぶのさ」
「私達は……」
「そう、一番最初の成功例があの緑の女だ。彼女は運営を担っていた。
バグに気付き、アクセスする。そして、今の状態だ」
「そんなことが……」
「可能だ。何しろ、彼女は肉体を持っていなかった」
「?」
「本当の意味で亡霊だったんだよ。機械好きのね」
 
本当の意味で亡霊?
 
「死した後も、気づかずに運営をしていた」
どういう?
「執着心の固まりだったんだよ。それが特殊なケースだということは知っている
そして、君もその特殊なケースだ」
 
「私が死んでいると言いたいの?冗談にもほどが……」
「冗談だと思うかい?
では、覚えているかなここに来る前、君は何をしていたのか」
「何って。なによ」
「君は学生と言ったな。いまは夏の長期休暇まっただ中」
「なぜそれを!?」
「君の脳内の記憶を見た。ここに来る前にね
そして、封印されている記憶を見つけた。解放してあげようか?」
 
 
気がゆるんでいたのだろうか、腹に一撃くらった。
痛みに顔をしかめ、視界の端に第二波が来るのを確認した。
避けられず、そのまま気を失う……
 
 
 
 
 
 
 
救急車のサイレン、騒ぎ声。
遠く、ずっと遠くに聞こえる
 
 
ひき逃げ……
 
 
痛いとは思わない。
ただ、視界が滲んでいく
 
死ぬんだって思った。
 
 
死んだんだ。
 
 
 
 
 
お母さんの声。部屋の扉をノックする音。
 
起きなさいと、声がかかる。
 
でも、扉を開けようとはしない。
 
彼女は知っている。
 
部屋の中に私はいない。
 
だけど、世話を焼く。
 
学校今日も休むの?と問う。
 
勉強、難しいものね、優しく頬笑んだ。
 
ご飯を運ぶ。
 
食べてくれないと文句を言いながらさげる。
 
お風呂が沸いたわよと告げる。
 
いい加減寝なさいと叱咤する。
 
 
私はいないのに……
 
 
お父さんは出ていった。
 
付き合いきれないって。
 
 
でも、お母さんはそのままだった。
 
わたし、錯覚した。
 
自分はまだ、生きてるって……
 
 
 
「思い出したかね」
嫌な声で目が覚めた。
「君は、もう戻れないのだよ」
「……戻る気なんて無いよ」
 
こっちだろうと、あっちだろうと、何も変わらないんだ。
もともと、向こうには私の存在なんて無い。
 
「理解してくれたようで嬉しいよ」
「結局、あなたの目的は何だったの?」
「君がここに来てくれた時点で最終段階に入るんだ」
「僕の目的は向こうの世界にこの世界のことを伝えることだ
そう、君を使ったら向こうの世界に干渉できると思ってね」
 
あれ?
「ちょっと待って」
「なんだい?」
「私は現実……つまり向こうの世界で死んでるんだよね」
「そうだ」
「魂だけの存在だからこちらに来たんだよね」
「そうだとも」
「……向こうにもし戻れたとしても、肉体がないんだよね」
「さようだ」
「干渉できないじゃない」
 
「……何?」
 
「幽霊とか、実体を持たない物って向こうではあまり信じたりしないから」
硬直するジャック。
唇がぷるぷると震えている
「まさか、考えていなかったとか」
図星っぽいねー。
 
「あー、もー。帰れないって事が判明しただけじゃん」
いじけたジャックは落ち込みモード、入っている。
声をかけたくなくなるほど、極端に落ち込んでいる。
 
「とう!うり坊参上!!助けに来たでってあれ?」
空気読めてない雰囲気炸裂。
後ろからかのこがハリセンを持ち出した。
 
「あ、ごめんなさい。勝手に連れ去られちゃって」
「ほんまに、心配してんで。二人ともおらへんくなるし、助けに行ったら
かのこは鎧苛めとるし、ストームちゃんは水浸しやし」
「苛めてへんもん。ただ格闘してただけやもん」
「強さが一方的やったらイジメやろ」
容易に想像できるのが何だか嫌だ。
 
「うり坊さん、この人の目的、わかりました」
「よっしゃ、やるやん。じゃぁ、任務終了?」
「あかん、来るとき下でドンパチ始めろ言うたわ」
え゛?
背後に爆発音を聞いた。
爆風と光が広がる……
 
「ちょ、今すぐ退散命令!」
「えー、まぁええやん」
「よーない!」
「はいはい、わかったわな」
 
取り出したカードがメガホンとなる……
『全員ー!退避ー!!攻撃終了せー!!』
ご丁寧にサイレン音付きだ。
 
「ほんなら、うちらも逃げよか」
「せやね、ストームちゃん、暴れんといてよ」
「えっ!えぇ?」
 
イノコに担がれた。そのまま跳ぶ気だ。
足下に風が起こっているのを見て、カードを使用する気だとわかった。
「舌噛まんといてよ」
ニッと笑うと、たかだかとそらへ舞い上がった。
 
 
Level2 END
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