虹の待つ森へ with その魔術師、異世界の住人につき

 

林の中、音を立てて馬車が行く。

しかしその歩みは遅い。周りを囲むようにして人が歩いている。両側に一人ずつ、そして後ろにもう一人、子供が歩いている。

御者台にはエプロンドレスの女が一人、明らかにその場に似合わないようにも見られた。他には誰も馬車に乗っていないようだ。荷物が散乱し、とても人が座っていられる状態では無さそうである。

急に御者台に座る女がいきなり馬車を止めた。馬がその場で足踏みする。

「どうかしたの?」

左側を歩いていた赤いマントの少女が馬を止めた女に問う。

女は返事もせずに上を見上げていた。と、彼女が持つ鞄からなにやら取り出し、すぐさまそれを投げた。

「ナルス?」

少女が不審がって尋ねたが、同時にギャッという妙な……明らかに人の……声が上空から聞こえた。

その声を聞き、上を見上げた少女。その額に何か赤茶の固まりがおちてきた。

「……キャ―――」

少々間を空け額に当たるなま暖かいようなそのふにっとした感触に思わず叫んだ。

「な、姫さん何があった?」

その声を聞き馬車の右側にいた蒼髪の青年が顔を出した。後ろの髪の長い少年も同じように近寄ってくる。

「何これ何これ何これないよ(?)」

もうすでにパニック状態に陥っているようだ。

「ちょっと、何なのよ今の。驚いてせっかくのお昼ご飯落っことしたじゃない」

少々いらついた、気の強そうな少女の声。

「おい、じじい。なにしやがった」

「暴れるでない、暴れたら……落ちるぞ」

少年の声に続き、しわがれた声でそう聞こえたが早いか、また何かが降ってきた。

今度のは相当でかい。

「取って取って、ヤダ―――――――……ぐえっ」

そして見事、暴れ回っていた少女……ジェルナにクリティカルヒット。と言うより、下敷きに……そして押しつぶした。

「いってぇ……」

むくりと起きあがったのは一番上に乗っかっている若干つり上がった目をしかめる黒髪の少年。突如として目の前にあらわれたその少年達に周りに集まった三人は目を丸くした。

落ちてきたのは二人。黒髪の少年とやけにスタイルのよい女性。

黒髪の少年はともかく後のはその綺麗さとその美しい肌を惜しみなく出している服とで異常に目を引かれる。

「ちょっと、一人だけ残さないでよ」

また上から声が降ってきた。一番初めに聞いた気の強そうな女の声だ。

「レン。アンタ、台になりなさいよ」

そういって、また何かが降ってきた。

今度は少女。

先ほど起きあがった青年を蹴り倒すような形で降りてきた。

犠牲者を出しながら無事に着地した少女。その子もまた耳が空へと伸びているという変わった姿だ。

「そんなに高くもなかったわね」

ふ〜んと自分がいた場所を見上げる。しっぽのように長い三つ編みが彼女の小さな動きごとに可愛く揺れる。

年齢的には全員ほとんど同じぐらいだろうか。みんな若い。

元々いた三人は一部始終を見ていたわけだが、とても口を挟めるような状態ではない。

早くジェルナを返して貰いたいモノだが (←落ちてきた奴らの一番下にいる

「……頼むから、早くどけ」

折り重なる人々の死人の山上で先ほど倒された黒髪の少年が言った。

はいはいと言いながらも少女は動く気配がない。と、少女はこちらに気づいたようだ。少し目を見開いて、すぐに戻った。

「アンタ達は、何?いっとくけどこれ、見せ物とかじゃないのよ」

凝視していたせいか、相手の方から声をかけてきた。

少々喧嘩腰な口調だ。

「大変失礼ですが、退散しようにもこちらの者があなた達の下敷きに……」

ナルスは御者台から降りると、丁寧な言い回しで死人の山を指さした。

「あら」

そういって素直に少女は少年達の上から降りた。

少年は苦しそうに胸と背中を押さえ、その下の美女は少年とは対照的に何事もなかったかのようにしていた。

「姫さん」

馬車の隣にいた青年が、一番下になっていたジェルナを起こす。

やっぱりのびていた。

全ての始まりはその隣に転がる食べかけらしきあからさまな骨付き肉が原因だったんだろうか

 

「……ってな処か」

ここはどこかと、目を覚ました黒髪の少年−−レンは尋ねた。

馬車を率いていた三人が簡単にこの辺りの説明をしていたのだが、木の上から降りてきた三人の話を聞いていると、どうやら異国−−−それも異界と言った方が正しい所から来たらしい。

円陣を組むようにして、座る七人とちょっと円から離れぶっ倒れている一人。

「このじじいがいつものように、ふらりと現れたと思ったら、案の定食い逃げの最中だったらしく追っ手が来ていて、『逃げるのじゃ』とか言ったきり怪しい術を発動させて」

レンはここに来た理由をそう告げる。が、じじいと呼びながら示しているのは例の美女である。

「……女、だよな」

蒼髪の青年・ロンジが隣に座る子供・シンに確認を取るようにささやいた。

「あら、何をいうのかしら?あなたとの子をどうすればいいのか判らなかったから、必死になって追いかけただけなのに……」

美女の言葉に、周りはレンに冷たい視線を送る。

「そのネタは一回使っただろ、じじい!!」

「し、知らなかったわ。レン、あなた見かけに寄らず……」

三つ編みの少女・フェイが笑いながら言う。その様子から見ておおかた冗談だろう。

「お前も悪のりしてんじゃねぇよ!!」

つっこみをフルでとばすレン。

「お前もいい加減その姿止めろ」

「仕方ないのぉ」

いきなり話し方からじじくさくなる美女。

ぽんっと、マジで爺さんになる。頭なんか先ほどまで長い豊かな黒髪があったとは信じがたいツルッぱげだ。

「え゛……?」

固まる三人。レン達はどうやらなれているらしい。

「な、なんだアンタ」

「わしか? わしはのぅ、髪…コホン。神(自称)じゃ!」

ちょっとしらけた。

 

「キメたところ申し訳ないんですけど……」

ゆっくりと起きあがるジェルナ。やっと気が付いたようだ。

「いきなり何してくれるんですか!!」

ちょっと……いや、かなり怒り気味な様子。

両手を前に差し出し、座る異世界の三人に手のひらを向ける。

何かを察したのか、相手方・レンが立ち上がり先手を打つ。

「電竜!!」

まさに名前のまま。雷が一本の線となりレンから真っ直ぐ放たれた。

「……魔法!?」

ロンジとナルスは目をまん丸くして素っ頓狂な声を上げた。シンも声は上げなかったが、驚きは隠せていない。

それに引き替えジェルナは軽くそれをかわした。おかしな話だが、どうやら怒りが頂点に達し、逆に冷静さを与えたようだ。

そして、彼女も言霊を唱える。

「雷よ。放ちし者を恨み制裁を与えよ!!」

ジェルナの後方をまだ駆け抜けていたレンの術が急に角度を変え跳ね返ってきた。

「うぉあ」

妙な跳ね返りをしたものだから元の場所には帰らず、神(自称)とその隣に座るフェイとの間に落ちた。

「姫さん」

今更ながら止めに入るロンジ。だが、聞く耳は持たないようだ。

「どうせなら、二人共焦がしておいてくれたら良かった」

なにやらおかしな事を呟くレン。

「こいつなら煮るなり焼くなり好きにしてください」

そんなことを言いながら神(自称)の背中を押し、一人で退散しようとするフェイ 

「わしを殺すのか!!老人は敬うものじゃぞ」

いきなり弱々しくなる神(自称)のじいさん。

どうやら、団体としては本当にまとまっていないようだ……

「あぁもう。姫さん、少し落ち着け」

ロンジの言葉にジェルナは眉間にしわを寄せながらも渋々とした様子で、前に出した手をおろした。

「あ。もう攻撃しないんで戻ってきてくださ〜い」

まさに俊足の逃げ足というかちょっとの間に見えなくなるまで当の三人は走り去ったあとだった。

結局、彼等の姿はその後見ることはなかった。

彼等は一体何をしにここまで来たのだろうか……

それよりまず、どうやってここへ来ていたのだろうか……

 

08/02/28

あとがき

あ−−−先に言っておきます。こんな物ですみません。

いやぁ、セバスさんのおかげで楽しいことはとても楽しかったのです。

ですが、遊びすぎて収拾がつかなくなってしまったので大幅カットいたしました……

中途半端&待たせっぱなし。どうもすみませんでした(土下座

えぇっと、キリリクそして、キャラクターを貸していただけたセバスさんにとびっきりの感謝を。

セバスさんのサイト→虹の欠片

お借りしたのは「その魔術師、異世界の住人につき」第二部から『フェイ・レーヴァント』『水代 煉』『神(自称)』でした。

02/28  漣

 
 
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