妖精使い(
1) −とある家にてーby
Crowkie青年は欠伸を一つした。その青年の足元には一匹の猫がいた。
しかし、その猫に額にはもう一つ目がある。その蛇のような目を開け、上を見た。
青年の顔がそこにある。
ケットシーと呼ばれる種族であるその猫はご主人様である男に、子供に虐められた猫の死体から蘇らせた男である。第三の目はその時に受けた矢が額に目のような傷を作った。そして、ケットシーとして生まれた時に、そこには目が宿っていた。
千里眼と呼ばれるその目は何キロも先を見ることができる力がある。
すべてを透視見することができるその目は精霊使いである青年にとってありがたい力である。
その愛猫、クロの力によってどれほどの事件を解決したことやら。
「主人」
クロはかわいい子供のような声で鳴いた。否、しゃべった。
「お客が来たようだ」
「恋愛の相談はお断りだよ」
「女だ」
それを聞いて、青年は口元に笑みを浮かべた。
そこに一人の少女がやって来た。白いシルクの服を着た少女で、美しい金髪であった。
「お客様がお見えになりましたが」
「どういった要件だ?」
「学友だそうです」
「・・・・」
青年は大きくため息をついた。
「あのな、学友って理由で通すのはどうかと思うぞ」
それを受けてその少女は笑みを溢した。
「だって、かわいい子なんですもん」
「かわいいこ?どんな子だ?」
「お客を待たすのは失礼に当たりますから、会ってからのお楽しみってことで」
青年は立ち上がった。
「人使いが荒いな」
ぼやくと青年が扉を開けて、部屋を出た。
扉を開けて外に出ると、足元に小指ほどの大きさの人間が列を成して歩いている。ムリアンと呼ばれる精霊である。小指ほどの大きさの彼らは頭についた蟻ほどの大きさの触角を揺らして、首についている鈴をならして、何やら一緒にお出かけをするようである。
彼らの主人である青年には何をしに行くのか、知らないことではあるが。
そのムリアン達の列を崩さないようにその脇を歩いていると、足を止めた。
足元には黒い布ような生き物がうごめいている。
それが青年の影まで動き、そこに行くとその姿を隠した。
彼らはシャドウストーカーと呼ばれる者で、人の後についていく修正がある。
そして、青年のいざと言う時に重要な護衛になるものでもある。
彼らの凶悪さは恐ろしいものがある。彼らは雑食であり、加えて大食だ。彼らはありとあらゆるものを食べることができる。その中でも好物なのが人である。人を影のような自分の体に取り込み、がっつく。そして、その人間のすべてを食い尽くすのだ。
そのため、人を食いつぶすためならなんでもする。そのため、主人である青年は制約を与えることによって、彼らをコントロールしている。
階段を降り、下に行くとそこには見たことのある少女がいた。
「異様な屋敷ね」
彼女は一言述べた。
そして、ゆっくりと立ち上がった。その手にはいつの間にか剣が現れる。
「これほどの妖精がこんな都会に暮らしているとはね。イギリスではなく、この日本で」
その剣からは光のようなものが出ていた。
「退魔師か」
「正解よ」
退魔師かつて日本にも多くいた対妖魔、妖怪を倒していた者たち。そのほとんどが歴史の裏で活動をし、表沙汰のにならないうちに数々の同胞を殺してきた者たちだ。
「そんなもん、とっくになくなっていたと思っていたが?」
「使用人すべてが妖精とはね。土御門の晴明ぐらいしかできないでしょうね」
「無視かい?」
「まさか、妖精使い。いえ、日本では式神がこれほどいるとはね」
「われわれは式神を滅ぼしていたの。陰陽師を滅ぼしていったと同じようにね」
「怪異を起こさせないと、幕府が生きていたのか?」
「足利、徳川の時代にも影で弾圧してきた」
「仏教と神道をつなげることにより、忘れ去ろうとした」
「武士にとって、正に脅威だもんな、式神のちからは」
「そういうこと。すべては将軍二人をあっさり暗殺された鎌倉幕府から始まったことよ」
「あれがはじまりなのか」
「禅の旺盛と武士の繁栄。そのためにあなた達はじゃまだったのよ」
「そこまで話すとはね、どういうつもりかい?」
「これからあなたは死ぬの」
「死ぬなんて簡単に言うもんじゃないよ。近野」
青年は静かに言った。
近野真琴は青年の空気が代わったことに気がつき、ソファーから立ち上がった。
それから数歩さがった。
後ろを振り向いた。そこにはいつのまにか少女がいた。
「人間?」
少女はうれしそうに笑った。優しく撫でるように真琴に障った。
それだけで体中から一気に力が抜けた。膝を付き、倒れこみそうになったのを両手で支えて、何とか耐えた。真琴は退魔師である。そのために過酷な訓練を受け、数々の妖怪を倒してきた。その真琴が、触れられただけで一気に体力を減らされたのである。
その恐ろしい力に恐怖を覚えた。
「何者?」
顔を上げて少女をにらんだ。
「私?」
少女はうれしそうに笑い、真琴の唇に自分の唇を当てた。
唇から伝わってくる冷たい感触、それと背筋から込みあがってくる恐怖。
そして絶望。
真琴は一瞬にして、甘い陶酔に似た闇に包まれた。
古井江和正は気を失った少女を見つめた。
「退魔師ね。そんなもん現代にいるとは」
「それは和正にも言えることですよ」
と後ろから現れたのは絹を身に纏った少女。ルキ彼女も妖精である。
「まあ、君も十分に普通じゃないけどね」
と、真琴を倒した本人である妖精がうれしそうに笑った。アシと名づけている。
長い黒髪をかき上げて、足元に転がる少女を見た。
「私のカズを殺そうとするなんて、甘いね。おかげで大分、精気をいただいたけどね」
うれしそうに笑った。
「ご主人様の精気を狙うメス猫が!」
「ミルクでも飲んでればいいのよ。おこちゃま!」
いつものように喧嘩が始まろうとしていたので、和正はほっておくことにした。
「君は一体何のためにきたんだい」
和正は倒れている少女を見つめていった。
精気をすべて吸い取られたようではなく、今はただ、落ち着いて寝息のようなものを立てていた。
和正はその少女の事を思い出そうと、目を閉じた。
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crowkie
様からいただきました、第二弾!!いやぁ、まさか祝っていただけるとは思いませんでした。感謝感激雨霰(ぇ
今回は現代版妖精使いとのことで日本名ですね。妖精達は洋名だけど……
イギリスじゃなくて日本って言ってますしね
いただいた日
'08/03/25
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